肩甲骨の基礎トレーニング5種目!パフォーマンスアップに必須メニュー
ピッチャーにとって「肩甲骨」が大切ということはみなさんイメージできると思います。
肩甲骨のトレーニングは球速アップ&ケガ予防に欠かせないメニューです。
でも、具体的にどんな肩甲骨トレーニングをすればいいのか方法が分からないという選手が多いのではないでしょうか?
肩甲骨のトレーニングはたくさん出回っていますが、肩甲骨を正しく操作するということはとても難しく、トレーニングのポイントをきちんと理解してやらないと効果はありません。
今回、ピッチャーが最低限やっておいてほしい肩甲骨の基礎トレーニングとそのポイントについてまとめました。
みなさんぜひ実践してみてください。
この記事の目次
肩甲骨トレーニングのメリット
トレーニングを紹介する前にピッチャーにとっていかに肩甲骨が大切であるかについて話します。
肩甲骨が動くといいことがたくさん
肩甲骨は三次元でいろいろな動きをしますが、ピッチャーにとって肩甲骨を内側に引きよせる動作はパフォーマンスを高めるために必要です。
ピッチングの各フェーズで肩甲骨がどのような動きをしているか、またその役割については下の記事で詳しく説明しているので、そちらをご覧ください。
肩甲骨をしっかり引きよせることができるとピッチング中に以下のメリットがあります。
- テイクバックをとりやすくなる
- 割れを作りやすくなる
- 開きをおさえやすくなる(ケガを予防しやすい)
- 前鋸筋の伸張反射を誘発しやすくなり、球速アップにつながりやすい
などいいことだらけです。
ぜひ今回紹介する肩甲骨を引きよせるためのトレーニングを取り入れてみてください。
肩甲骨が動かないと肩を痛めやすい
肩甲骨の動きが悪いとケガにつながりやすいことは以前からよく言われていて、海外の有名な論文中でも以下のように紹介されています。
肩甲骨は投球動作の中で大きな役割を果たしていて、肩甲骨の動きが悪いと肩関節唇損傷の発症に影響を及ぼす可能性がある。
The Disabled Throwing Shoulder:Spectrum of Pathology Part III:The SICK Scapula,Scapular Dyskinesis,the Kinetic Chain,and Rehabilitationを参考
このように肩甲骨が重要といわれる理由として、腕を上げる動作に肩甲骨が大きく関わっていることが挙げられます。
上の図は肩甲上腕リズムといわれる運動学に出てくる概念です。
1番目の図が腕を下ろしている状態で2番目が腕を90°まで横に広げた(肩と同じ高さ)状態になります。
そのときの肩甲骨を見てみると、腕を下げた位置から30°上向きに動いているのが分かります。
これが何を意味するかというと、腕を上げる動作は腕のみが動くのではなく、肩甲骨もその動きについていくように向きを変えて腕がスムーズに動かせるようにアシストしてくれているということです。
一般的に、腕のトータルの動きに対する角度の比率が上腕骨と肩甲骨で2:1になるといわれています。
今説明した腕を横に広げる方向だけでなく、腕を動かすときには基本的に肩甲骨が一緒に動き、腕の動きをサポートしています。
これが正常な腕の動きになるので、もし肩甲骨の動きが悪い選手の場合は腕だけを無理やり動かす必要があり、その分筋肉・靭帯・関節などに負担がかかりやすく、ケガも起こりやすくなります。
これは頭上から見た図になりますが、テイクバックをとるときに腕は大きく後ろに引けます。
このときに肩甲骨を引き寄せることがができていれば問題ないのですが、腕だけを後ろに大きく引く動きになってしまうと肩の前側と後ろ側の両方に大きな負荷がかかってしまいます。
肩の前側は鍵板疎部損傷、肩の後ろ側ではインターナルインピンジメントなどの野球肩になりやすいので注意が必要です。
チャップマンの投球動画です。
テイクバックで腕が大きく後ろに引けていますが、腕だけでなく、肩甲骨と鎖骨も大きく引いているからこそなされる動きになります。
- 腕を後ろに引くと痛い
- テイクバックで痛みが出る
- 病院で鍵板疎部損傷やインターナルインピンジメントという診断をされた
このような選手は、これから説明する肩甲骨トレーニングをぜひ取り入れて肩周りのコンディショニングを高めるようにしましょう。
肩甲骨トレーニングのメニュー
ではこれから具体的なメニューを紹介していきます。
肩甲骨Tトレーニング
1つ目に紹介する肩甲骨トレーニングはTトレーニングです。
うつぶせに寝て肘を引き上げて肩甲骨を動かすというとても簡単そうなトレーニングですが、細かいポイントがいくつかあるので一緒に確認していきましょう。
腕だけであげないようにしよう
Tトレーニングは腕だけで肘を持ち上げないのというのが重要なポイントです。
腕だけでなく、肩甲骨を背中の中央に引きよせることで肘が持ち上げられるイメージやると効果的に肩甲骨周りの筋肉を強化することができます。
もう一つ大切なポイントがあります。
肩甲骨を動かしやすくするためには「鎖骨」をきちんと使いこなせないといけません。
鎖骨を使う
といわれると全くイメージできない方が多いのではないでしょうか。
肩甲骨の重要性やトレーニング法については本などにたくさん載っていますが、鎖骨の使い方やその重要性について説明しているトレーニング本やサイトはあまりなく意識したこともないという方がほとんどです。
でも肩甲骨周りの筋肉を効率よくトレーニングするためには鎖骨を使えているかがとても重要になります。
これから下の図を使って解説していきます!
まずは左の写真をみてください。
赤い丸の中に鎖骨と肩甲骨がありますが、肩鎖関節という一つの関節を介して連結しています。
右側の絵は頭の方から鎖骨と肩甲骨を描いてありますが、鎖骨と肩甲骨がくっついているのがよく分かるかと思います。
そのため、
肩甲骨をたくさん動かすためには肩甲骨に連結している鎖骨も連動して動かす必要がある
上の図は鎖骨をうまく使えている例と鎖骨をうまく使えずに肩甲骨の動きが出ていない例です。
鎖骨をベッドから離すように動かすことができれば、鎖骨にくっついている肩甲骨も肋骨の上をスライドして自由自在に動かしやすくなります。(上側の図)
反対に、鎖骨をしっかり動かせていないといくら肩甲骨を引き寄せようとしても鎖骨がロックされた状態なので肩甲骨をスムーズに動かすことはできません。
鎖骨と肩甲骨の動きは表裏一体なのです。
Tトレーニングではベッドから離れるように鎖骨を引いて肩甲骨を大きく動かせるようにしましょう。
背中の内側の筋肉を意識しよう!
Tトレーニングは上部(オレンジ)・中部(赤)・下部(紫)と3つの繊維に分かれている僧帽筋という筋肉の中で真ん中に位置する僧帽筋中部を強化するトレーニングになります。
トレーニング中は上図の赤い位置あたりの肩甲骨内側を使っているというイメージを持つようにしてください。
Tトレーニングの回数目安
最初は鎖骨の使い方を意識して正しく行えるのが一番大切なので、実施回数は少なくてもかまいません。
初心者
・15回×3セット
鎖骨と肩甲骨の使い方をマスターした選手
・20回×3セット
上記回数を目安にしてください。
鎖骨と肩甲骨を正しく使えている選手はほとんどいないので、正しいフォームで行うとこれぐらいの回数でもけっこう疲れます。
逆に疲れがない場合は腕だけで上げている可能性が高いので、もう一度やり方をチェックするようにしましょう。
肩甲骨Yトレーニング
次に紹介するのはYトレーニングです。
先ほどのTトレーニングは腕の位置が真横でしたが、Yトレーニングでは自分でYを作るように少し高い位置に腕を置きます。
親指は上向きにして腕を上げていくのですが、Tトレーニングと同じで腕だけを動かすのではなく、鎖骨をベッドから離すようにして肩甲骨を大きく動かすようにします。
では細かいポイントを見ていきましょう。
肩甲骨を引く方向を確認しよう
Yトレーニングでは肩甲骨を引きよせる方向がTトレーニングと違います。
上の図のように斜め下方向に向かって肩甲骨を引き寄せるのですが、Tトレーニングよりも肩甲骨を引きよせる感覚を意識しにくく、少し難易度が上がります。
肩甲骨を引きよせるというよりは「肩甲骨を寄せて締める」イメージで行うとうまくいきやすいです。
腕の上がりが弱いと肩甲骨の動きはほとんど出ないので鎖骨を使ってなるべく腕を高く上げるようにしてください。
斜め下方向に肩甲骨を引っ張ろう
このトレーニングでは僧帽筋の下部繊維(紫)を使います。
紫色の辺りに意識を集中させてトレーニングするようにしてください。
Yトレーニングの回数目安
初心者
・15回×3セット
鎖骨と肩甲骨の使い方をマスターした選手
・20回×3セット
Tトレーニングよりも少し負荷が高く、腕が上がりきらない選手が多いです。
肩甲骨が動いていなければトレーニングの意味がないので、その場合は8〜10回から始めるようにしましょう!
肩甲骨Wトレーニング
次はWトレーニングですが、T・Yトレーニングより負荷が高くなります。
Wトレーニングは左右の腕を同じように動かしていきます。
- 両腕をベッドの端からおろします
- Tトレーニングの要領で左右の肩甲骨を引きよせます
- 肘から先を持ち上げるように上げます。肘から先を3の位置に逆戻りしてスタートポジションに戻って1回終了です。
肩甲骨Wトレーニングのやり方
- 2で引きよせた肩甲骨を4の位置に戻ってくるまでしっかりキープしましょう。
- 特に、3から4にかけて腕を戻す瞬間に肩甲骨周りの力がフッと抜けることが多いので注意しましょう。
- 2〜4で肘の高さが下がらないよう意識しましょう。
2で肩甲骨でしっかりと引きよせることができていなければ、Wトレーニングを行う段階ではないので、そのような選手はまずTトレーニングをしっかり行うことができるようにしてください。
肩甲骨を引き寄せたままインナーマッスルを使おう
Wトレーニングは僧帽筋中部に力を入れたままインナーマッスルを使うトレーニングです。
意識する筋肉はTトレーニングと同じ僧帽筋中部になります。背中のどの辺にあるか忘れてしまった方は再チェックしてください。
Wトレーニングの回数目安
初心者
・15回×3セット
鎖骨と肩甲骨の使い方をマスターした方
・20回×3セット
肋骨可動域トレーニング
次はストレッチ要素が入ったトレーニングです。
後で詳しく説明しますが、肩甲骨を巧みに使いこなすためには肋骨周りの柔軟性が絶対的に必要です。
今回紹介している肩甲骨トレーニングセットを行うときにこのストレッチも必ず行うようにしてトレーニング効果を最大限引き出せるようにしましょう。
- 両膝をたててストレッチポールの上に乗ります。ストレッチポールがない場合はバスタオルを丸めて20cm〜25cmの高さを作ってください。
- 両肘をゆっくり上げていきます。そのときに目で手の動きを追うようにしてください。
- 手が床に着くところまでバンザイします。肋骨が広がるのを感じるところで深呼吸を3回してから元の位置まで戻ります。
肋骨を柔軟に使うことで肩甲骨も動きやすくなる
先ほど少しお話ししたように肩甲骨を自由自在に動かすためには肋骨周りの柔軟性が大切になります。
その理由について簡単に説明します。
上の写真のように
肩甲骨は肋骨の上にへばりつくようにし乗っかっています。
そのため
- 肩甲骨だけを動かそうとしても、肋骨周りがガチガチだと肩甲骨は動きにくくなります。
- 肋骨周りをグニャグニャに動かすことができれば、肋骨の上にくっついている肩甲骨も動きやすくなります。
例えが正しいか分かりませんが、
肩甲骨は「金魚のフン」のようなものなので、鎖骨・肋骨などの周りの部位が動けばそれについていくように動いて可動範囲を広げることができます。
肋骨可動域トレーニングの回数目安
頭に血がのぼらないように休憩しながらのんびり10分程度
ぼーっとしながらでもいいのでリラックスして行うようにしてください。
肋骨周りが固くなる選手はとても多いのでクーリングダウンとしてもオススメのメニューです。
肩甲骨フル可動トレーニング
最後は肩甲骨フル可動トレーニングです。
肩甲骨周りの筋肉を総動員して肩甲骨の可動域と筋力を高めるトレーニングです。
- 2:両肘をなるべく高く上げます。手は頭の後ろに置いたままです。
- 3:両手でYトレーニングの位置をとります。
- 4〜5:肘の高さを変えずに逆Yの字の形をとります。
- 5:3で天井向きだった親指を内向きに回しながら下げていきます。
- 6:肘の高さを変えずに背中で手を合わせます。
- 7:手を背中に置いて力を抜いてリラックスします。
- 7→1まで逆再生するように最初の位置まで戻って1回終了です。
※「イチ」「二」「サン」「シ」・・・とリズムよく行うようにしてください。
肩甲骨フル可動域トレーニングのポイント
- 肘は2〜7まで同じ高さをしっかりキープする(結構きついです)
- 腕をなるべく大きくめいっぱい使って、可動範囲を広げる気持ちで行うようにしましょう!!
可動範囲が狭いと体を効率よく使うことができず、大きな力を発揮することができません。
反対に、可動域が広いとしてもその可動範囲でフルに力を出すことができなければ、パフォーマンスアップにつながりません(宝のもちぐされ)。
「広い可動域」を「フル」に使いこなせるというのはピッチャーにとってマストなスキルです。
短時間でできて効果出やすい肩甲骨のストレッチ方法を3種目厳選して下の記事で紹介しています。
その記事内で紹介している肩甲骨ストレッチはウォーミングアップに取り入れることをオススメします!
この筋肉を意識しよう
たくさんの筋肉を使うトレーニングなので個別の筋肉を意識するというよりは先ほどのポイントをしっかり頭に入れて取り組むようにしてください。
肩甲骨フル可動トレーニングの回数目安
負荷がとても高いのでやりながら負荷を調整しましょう。
一応目安は下記の通りです。
初心者
・5〜8往復×3セット
慣れてきたら
・10往復×3セット
まとめ
今回の肩甲骨トレーニングに限ったことではないですが、正しいフォームできちんと運動方向を理解してトレーニングを行うことが効果を高めるためにとても大切になります。
特に、肩甲骨周りは刺激が入りにくい筋肉が多いので正しいやり方でトレーニングに取り組まないと効果はありません。
肩甲骨トレーニングを行うときのポイント以下の通りです。
- 鎖骨を動かして肩甲骨のスムーズな動きを誘導する
- 肩甲骨を引き寄せてくれる筋肉の場所を知っておく
- 最初は回数が少なくてもOK!正しいフォームで行う
今回紹介したのは比較的単純なトレーニングですが、最初から正しく行えている選手はほとんどいません。
細かいポイントをお伝えしましたが、なれるまでは回数が少なくても全然大丈夫なので、惰性のトレーニングにならないようにして取り組んでみてください。
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