リリースポイントを前にするために知っておくべきメカニズム
ピッチャーはリリースポイントが前になると、バッターに近い位置でボールを放すことが可能になり、バッターからすると非常に打ちにくい球になります。
そのため、コーチから
「もっと前で放せ」
と指導を受けたことがある選手も多いのではないでしょうか。
リリースポイントを前にしようとしたときに腕だけで調整しようとすると
- 肘のつきだし
- リリースポイントで肘が下がる
などの非効率的な投球フォームにつながりやすく、全身をダイナミックに使ったリリースができなくなる危険性があります。
そうなってしまうと球速が落ちてしまうだけでなく、肘にかかる負担がとても大きくなり、肘の靭帯損傷(内側側副靭帯損傷)、離断性骨軟骨炎(肘外側のケガ)、肘頭疲労骨折(肘後ろ側のケガ)などの野球肘につながる可能性が高くなります。
ピッチャーがリリースポイントを前にするため重要なのは腕の調整ではなく、股関節や肩甲骨・脇腹などの全身の柔軟性や巧みな使いこなしになります。
今回は具体的にどんな体の使い方をすればいいのかという話をしていきます。
- リリースポイントの位置に関係するエクステンション
- リリースポイントを前にするための全身の使い方
- 自分の投球フォームを簡単にチェックする方法
この3つに分けて話を進めていきます。
リリースポイントを前にするための基本原理を理解し、そのために必要な動作を知ってもらうことがこの記事の目標です。
それではさっそくいきましょう。
この記事の目次
リリースポイントを決めるエクステンションについて
まずはリリースポイントと深い関係があるエクステンションについて紹介します。
エクステンションってなに?
エクステンションとはプレートからリリースポイントまでの距離のことをいいます。
この距離が長いほどバッターに近いところでリリースできるので、ピッチャーはエクステンションをできるだけ長くして投球をする必要があります。
エクステンションが短いと体感球速が遅くなってしまう
MLBサイトの2019年データを見てみると平均球速トップ50のピッチャーの中で1番エクステンションが長い投手は204.2cmでした。
この選手の球速は
- 平均球速→155.7km/h
- 体感球速→157.3km/h
で体感球速の方が約1.6km/hも速く、バッターが実より速く感じるストレートを投げることができているのが分かります。
その一方で1番エクステンションが短い投手は161.5cmでした。
この選手の場合は
- 平均球速→156.6km/h
- 体感球速→153.6km/h
で実際の球速より3km/hもバッターは遅く感じていました。
バッターにとって打ちづらいストレートを投げるためには体感球速を上げる必要がありますが、そのためにはエクステンションを長くしなければいけないといえますね。
リリースポイントを前にするための投球フォームの修正ポイント
手足が長いほどエクステンションは当然長くなりやすいのですが、身長が小さいからと言ってあきらめる必要はありません。
これから説明する体の使い方をマスターすることでリリースポイントを前にして体感球速を速くすることができます。
それでは一緒にみていきましょう。
股関節をはめて引く
ピッチングではステップ足が着地した瞬間に軸足が右足から左足へ切り替わり、回転運動をして最終的にリリースをします。
リリースポイントなるべく前にして安定させるためには、単純にいうと右腕が最大限までキャッチャー方向に伸びていけばいいことになります。
そのために必要なのが、左半身と右半身を入れ替えて右半身を前に持っていく動作です。
上の写真のようにステップ足が着地したときに軸足を右足から左足に切り替えます。
このときに左股関節にしっかり体重を乗せて左のお尻をしっかり引きこみます。
左のお尻が引けることによって、相対的に右半身がキャッチャー方向に近づきます。
右半身が前にいくことで、リリースの位置もキャッチャーに近づけることが可能になります。
- リリースポイントを決める舵取り的な役割はステップ足の股関節(骨盤)
みなさん体を使ってその感覚を体験してみましょう。
下に書いてある通りに体を動かしてみてください。
- 左足を一歩前に出して立つ
- 目の前の届くか届かないかギリギリの所にお金がぶさがっていると思って右手をできるだけ伸ばす
このときに
- ①左のお尻を後ろに引く
- ②左のお尻を動かないように固定する
どちらのパターンが手が遠くに伸びて確実にお金をゲットできそうですか?
左のお尻を引いたほうが手が遠くに伸びるはずです。
このように左のお尻を引くことで体の入れ替えをスムーズに行うことができます。
ただし、お尻周りの柔軟性と股関節の安定性がないと途中でお尻の回転が止まってしまい、体の入れ替えが不十分となります。
股関節(お尻周り)の柔軟性がないとリリースポイントを安定して前にすることはできないのです。
ピッチャーは絶対お尻周りの柔軟性を高めるように日々のケアに努めるようにしてください!
股関節の柔軟性を効率よく確実に高めるトレーニング法については以下の記事で紹介しています。
腕をなるべく長く使うには肩甲骨と脇腹も使いこなす
腕を伸ばすときに肩甲骨と脇腹を柔らかく使うことで腕を長くして使うことができ、さらにパフォーマンスが上がりやすくなります。
右腕をバンザイしてその位置から腕をさらに真上に伸ばそうとすると少し腕が伸びますよね?
これは肩甲骨と脇腹あたりが連動して動くことで腕を真上に持ち上げてくれているからです。
このようにピッチャーは腕以外の部分も柔らかく使い、見かけ上の腕の長さを作り出すことがパフォーマンスアップのためにとても重要です。
肩甲骨・脇腹を柔らかくするストレッチはこちらの記事の中で紹介しているクロコダイルリーチとヒップリーチがオススメですのでぜひ参考にしてください。
こんな指導していませんか?
もっと前でリリースしろ!
という指導はよく聞かれるのではないしょうか。
ただこの指導には注意が必要です。
前述のようにリリースポイントを安定して前にするためには股関節・肩甲骨・脇腹がしっかり動いたうえで右腕がキャッチャーに向かって伸びていく必要があります。
腕の動きだけで作り出されるわけではありません。
腕だけで調整しようとすると「肘下がり」が起こりやすくなります。
肘下がりについて簡単に説明します。
リリースポイントでは左肩-右肩-右肘を結んだ通称肩・肩・肘ラインが一致するのが理想です。
しかし、腕だけでリリースをコントロールしようとすると肘だけが前につきだされ、高さ自体も低くなってしまい、肩・肩・肘ラインが一致しなくなります。
肘下がりは肘への負担が大きくなり、野球肘になる危険性が高くなるので注意してください。
肘が下がるの原因
リリースポイントで肘が下がってしまい、リリースポイントが安定しない投手には以下の特徴があるといわれています。
リリースポイントで肩・肩・肘ラインを作れていない選手(肘のケガをした選手)では0ポジションでのインナーマッスルの筋力が落ちていた
https://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=do3thkpt&ye=2014&vo=&issue=26より引用
リリースポイントを前にするためには筋力アップも欠かせない要素といえます。
0ポジションでのインナーマッスルトレーニングのやり方については下記で説明していますので、そちらを参考にしてください。
自分の投球フォームをチェックしてみよう
最後にご自身のフォームをチェックしてみましょう。
エクステンションを直接計測するのは難しいので今回はそれに変わる数値で確認していきます。
- 横から撮影したリリース写真を用意してください
- 地面の垂直線に対する体幹の前傾角度を測定しましょう
この角度が大きいほどリリースポイントを前することができていると判断できます。
この角度が小さいと球速が遅くなってしまう
このようなデータも出ていて簡単に計測できるのでぜひチェックしてみてください。
自分の投球フォームが理想的かどうかは下記数値を目安にしてください。
30°以上が最低ライン
- 40度以上あればGood!
- 45度以上あればExcellent!!
また、肩・肩・肘ラインが一致しているかもあわせて確認してみましょう。
まとめ
リリースポイントを安定させ、またなるべく前にするために重要なことは以下の通りです。
- 左のお尻を後ろに引く(お尻周りの柔軟性が必要)
- 体の入れ替えを行う
- 肩甲骨・脇腹も使って腕を長くする(肩甲骨・脇腹の柔軟性が必要)
腕だけで矯正ようとすると肘下がりが起こりやすくなるので注意が必要になります。
全身を大きくかつ正しく使いこなすことができれば、結果的にリリースポイントが安定するということを理解してトレーニングするようにしましょう。
Reference
- 投球障害肘における肘下がりの要因.東北理学療法学26.2014.105-110
- 肩後方タイトネスがテイクバック期の肩外転角度に与える影響.日本臨床スポーツ医学会誌26(3).2018.466-471
- Sagittal Plane Trunk Tilt Is Associated With Upper Extremity Joint Moments and Ball Velocity in Collegiate Baseball Pitchers.The Orthopaedic Journal of Sports Medicine 6(10).2018.1-5
Pitching biomechanics as a pitcher approaches muscular fatigue during a simulated baseball game.Am J Sports Med 35(1).2007.23-33
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